享きょう保ほう12年（1727）から13年（1728）にかけて
『紀州流きしゅうりゅう』の達人井い澤ざわ弥や惣そ兵べ衛え為ため永なが翁おうが見み沼ぬまに代わる用水として、わずか半年で見み沼ぬま代だい用よう水すいを完成。
徳川吉宗とくがわよしむねが八代将軍はちだいしょうぐんになった享きょう保ほう元年（1716年）は幕ばく府ふの財政ざいせいは非常ひじょうに悪く、その立て直しのため、質素しっそ倹約けんやくを第一番として庶しょ民みんに徹底てっていさせ、幕府ばくふの収入増加しゅうにゅうぞうかの為ための新田開発を呼よびかけました。 これは『享保きょうほうの改革かいかく』といわれ、特に新田開発に力を入れたことから、吉宗よしむねは米将軍こめしょうぐんとも呼よばれています。
積極的に改革かいかくを進める上で、吉宗よしむねが紀伊きい（現げん：和歌山県わかやまけん）藩主はんしゅだった時、新田開発に手柄てがらのあった紀州藩士きしゅうはんし 井澤いざわ弥や惣そ兵べ衛え為ため永なが翁おうを享保きょうほう8年（1723年）に紀伊きい藩はんより連れてきて幕府の役人としました。
為永ためながは「見沼みぬま溜ため井い」1200町歩ちょうぶを干拓かんたくし、この沼の代わりとなる用水を利根川に求め、約60kmの「見み沼ぬま代だい用よう水すい」を開かい削さくし、併あわせて沿線えんせんの新田開発も行いました。
利根川に設もうけられた「元圦もといり」は、当時としては例を見ない大規模だいきぼなもので、久喜市くきし菖蒲町しょうぶちょう地内ちないには「八はち間けん堰ぜき」・「十六間堰じゅうろくけんぜき」、元荒川もとあらかわと交差する白岡市地内には「柴山伏越しばやまふせこし」、綾瀬川あやせがわと交差する上尾市地内あげおしちないには 「瓦葺掛渡井かわらぶきかけとい」を築造ちくぞうしました。これらの主要構造物しゅようこうぞうぶつには、随所ずいしょに為永ためながの工夫と技術ぎじゅつが示しめされており全国的にも著名ちょめいなものとなっています。
現代げんだいのように進んだ技術ぎじゅつや土木機械どぼくきかいのない時代にあって、為永ためながは水盛器みずもりきという簡単かんたんな道具と竹竿等たけざおなどで、夜は提灯 ちょうちんで土地の高低を測はかったといわれていますが、その結果は極めて正確せいかくで、その後の通水で実証されています。
この事業は、享保きょうほう12年（1727）8月に着工し、半年後の翌よく13年（1728）春には完成しました。3月には「見み沼ぬま新しん田でん地ち割わり」を行い直ちに通水していることから正に驚異的きょういてきな早さで進められたことになります。為永の生涯しょうがいで最大の事業であって、かつ代表的な土木事業どぼくじぎょうとなりました。

続いて為永ためながは、水路沿線すいろえんせんの沼ぬま等などを開発し、見み沼ぬま代だい用よう水すいより分派ぶんぱする黒沼くろぬま・笠原沼用水かさはらぬまようすい、天久保用水あまくぼようすい、高沼用水こうぬまようすい等などの諸用水路しょようすいろを新削しんさくし、 ここに、かんがい面積約14,000haという全国屈指ぜんこくくっしの規模きぼである見み沼ぬま代だい用よう水すいが生まれました。

昭和43年（1968年）見み沼ぬま代だい用よう水すい「元圦もといり」の東側に、水資源公団みずしげんこうだん（現げん：独立行政法人どくりつぎょうせいほうじん水資源機構みずしげんきこう）による利根導水路とねどうすいろ建設事業けんせつじぎょうとして利根とね大堰おおぜきが完成し、埼玉・群馬両県下の農業用水が合口ごうぐちされました。
これにより、享保きょうほう年間ねんかん以来いらい240年にわたり取水されていた「元圦もといり」は廃止はいしされましたが、井い澤ざわ弥や惣そ兵べ衛え為ため永なが翁おうの選んだこの取水地点が現代科学げんだいかがくによる実験等の結果からも最適地さいてきちとして裏付うらづけされたこととなり、 その着眼ちゃくがんと技術ぎじゅつがいかに素晴すばらしく、構想こうそうが広大であったかが、あらためて思い起こされます。

現在げんざいも見み沼ぬま代だい用よう水すいは、土地改良区の関係者はもとより地域ちいきの財産ざいさんとして愛され、有効ゆうこうに活用されています。